KREVA×L-VOKAL スペシャルインタビュー

Kの“ポップネス”が導いた、Lの“ニューフェイズとニューフェイス”

(ブラストもねぇ ソースもねぇ 宇田川町にはシスコもねぇ ラジオもねぇ テレビもねぇ 表現する場所奪われて でもLがいてKがいて スピーカーの前にみんないて 上を見て 手を挙げて せっかくだからStep upしてぇ)

L-VOKALとKREVA。この国におけるヒップホップの現状をシリアスに射抜いたうえで、ラッパーとしての折れない向上心を示したフックのインパクトがあまりに鮮烈だった、日本語ラップ史に刻まれるべきクラック「STEP UP feat.KREVA」がリリースされたのは、いまから5年前。
その後もLとKはコンスタントに交わり、刺激的なキラーチューンをシーンに送り込んできた。そして、ついに“がっぷり四つ”の体勢で、KREVA完全プロデュースによるL-VOKALのアルバムが、くレーベルからリリースされる。タイトルはズバリ、『別人Lボーカル』。これは、言わずもがな、KREVAのソロ1stアルバム『新人クレバ』をオマージュしたものだ。タイトルだけで一本取ってくるあたりは、さすがの2人である。

L-VOKAL「最初に俺が影響を受けたKREVAくんのアルバムが『新人クレバ』なので。今回、完全プロデュースしてもらうということで、KREVAくんに敬意を表しつつオマージュできたら面白いなって。このタイトル、相当フックがあるでしょう?(笑)」

アルバムの内容に触れる前に、あらためて両雄の出会いから『別人Lボーカル』の制作に至った流れまでを振り返ってもらった。

L-VOKAL「最初にKREVAくんに会ったのは2007年かな? Shibuya NUTS(2009年に閉店)の前を通ったら『FG NIGHT』をやっていて。会う前にKREVAくんに抱いていた印象は、オリジナルのスタイルで日本のヒップホップを追求している人。クレバくんの『新人クレバ』を聴いて、チャンスがあったから会いたいなと思ってたんです。
俺は、出会いって自然の流れだと思ってるんですよ。“L-VOKALは顔が広い”って思われてるけど、俺のアンテナは厳しくて。ホントにイケてる人としかリンクしたくない。前にKREVAくんにも“Lは出会い運があるよね”って言われたんですけど、たとえばNIPPSさんと一緒にやりたいなと思ったその日に渋谷でバッタリ会ったりして。それは偶然なんだけど、必然でもあると思うんです。で、NUTSの前を通ったときにこれはチャンスだと思ってなかに入ったら、入口付近にKREVAくんがいて。いきなり声をかけたんです。KREVAくんは覚えてないかもしれないけど、すぐに“一緒にやりたいです”って話しかけて、次の日にはもうトラックを送りましたね」

KREVA「俺はSEEDAが出しているミックスCD『CONCREET GREEN』でLの存在を知って。面白いラッパーだなと思いました。当時はいまと違って歌詞は英語が多めだったんだけど、シンプルなアプローチのなかに独特の癖があってカッコいいなと思って。最初にLが声をかけてくれたときから、何かあると連絡してきてくれて。プラベートで遊んだりするわけじゃないけど、音楽的な交流は続きましたね。
2012年の初頭に、Lから“アルバムを1枚プロデュースしてほしい”という話をもらって。俺もすぐ“いいね”ってなってたんですけど、どうやったらいちばんいい形でできるかなって考えたんです。それで、くレーベルからリリースするなら俺が全曲プロデュースというコンセプトもうまくハマるかなと。最近のくレーベルは将絢×EVISBEATS『offutaride』(2010年6月リリース)をリリースしてからはずっと機能してなかったし。これはちょうどいいと思って」

2012年9月8日にさいたまスーパーアリーナで開催された『908 FESTIVAL』のステージ上で、L-VOKALの口からKREVA全面プロデュースでアルバムを制作することが発表された。
あれから、ちょうど1年。ここに完成した『別人Lボーカル』は、L-VOKAL史上初めて客演なしで臨んだだけでなく、あらゆる面でフレッシュな作品になった。まず、KREVAが惜しみなくその手腕をふるった全10曲は、ストイックなヴァースとメロディアスなフックのコントラストを際立たせたリードシングル「YO! YOU!」のテイストとは異なる、洗練されたポップネスをたたえたトラックが数多く連なっているのが印象的だ。開放感に満ちたゴージャスなピアノやメロウなエレピのループを軸に構築したM2「いいね!」、M5「Same Ol’Biz」。グルーヴィーなラテンジャズやソウルフルなボッサなど、ブラジリアンミュージックのサンプリングをフィーチャーしたM6「CHILLING」、M7「Fever」、M10「Europe」。そして、ボーカロイドを取り入れたM10「TOKYO MARATHON」と、KREVAの“ポップマエストロ”としての仕事ぶりが、L-VOKALの“ニューフェイズとニューフェイス”を導いている。

KREVA「せっかく俺がプロデュースするなら、これまでのLとはまったく違う作品性にしたくて。当初はメロウなムードで統一して、ライヴでやるというよりは、リスニング重視のアルバムにできたらと思ってたんです。それでエレピとドラムだけで作ったトラックをいくつかLに渡したんですけど、途中でもっとキャラクター性のあるトラックも投げたほうがいいんだなということに気づいて。そのほうがよりLの新たな世界観を出しやすいんだなって。
結果的に、全体像としてフレッシュなポップ感が強く出た要因はそこにありますね」

L-VOKAL「俺がこれまで作ってきたアルバムが、ハンバーガーやピザのようなものだとしたら、そのテイストは極めることができたなと思っていて。今度は新たなフレーヴァーで違う料理を作りたいと思ったときに、KREVAくんというイケてるカフェのマスターが近くにいて。マスターと“俺とコラボしたらどういうものができますかね?”って話したら、かなりオシャレでオリジナリティのあるフレンチトーストができたっていう感じですね。
このジャケットのように優しいピンク色っぽいニュアンスをベースに、いろんな新しい味を聴かせることができるアルバムになったと思います」

リリック面では、L-VOKALの専売特許であるシニカルかつウィットに富んだ語り口や時代の実相を鋭く浮き彫りにする批評眼は、もちろん健在。シリアスな現実と真っ向から対峙しながら、いかに人生をエンターテイメントできるかという彼のラッパーとしてのフィロソフィーが、豊潤なトラック群の上で躍動している。
本作に触れて、L-VOKALというラッパーの背中の支えているのは、揺るぎない“ニュートラルな視点”であると再確認する。

L-VOKAL「俺はやっぱりラップでカッコいいことをカッコよく言うんじゃなくて、カッコいいことを面白く言いたいんですよね。プラス、今回はKREVAくんのトラックを受けて、いつも以上にフレッシュでオシャレな感じも意識して。いま“ニュートラル”って言われてハッとしましたね。ああ、それだって。俺は日本人の血とイギリス人の血を両方もっていて、そういうバックグラウンドがあるから常に真ん中の視点で世界を見ているんだなって。日本のいいところと外国のいいところ、その逆も常に見ているから。それを踏まえて、いま俺たちが生きている時代の音楽をラップで表現したいんだなって。たとえばルネサンス美術を観て“当時の人たちはこんなことを考え、こんな思想をもっていたんだ”ってわかるように、自分のラップも後世に生きる人が“この時代はこうだったんだ”ってわかるものにしたいんですよ」

最後に、両雄が見据える『別人Lボーカル』を“届けたい場所”について語ってもらった。

KREVA「いろんな人に聴いてもらえるアルバムになったなと思うので。Lもブログに書いてたけど、これでヒップホップシーンをひっくり返すとか、そんなことはまったく考えてなくて。それ以上に、リリースしてすぐに忘れ去られるようなアルバムにならなかったのが重要なんですよね。季節を問わずいろんなシーンに合わせて聴ける曲がそろっているから、その都度、どこかで音源をアップしたりして長い視点で紹介していけたらと思ってます」

L-VOKAL「俺もKREVAくんと同じで、とにかくいろんなタイプのリスナーに聴いてもらいたいです。ヒップホップを積極的に聴いてこなかった人にも“日本のヒップホップってカッコいいじゃん”って言ってもらえる自信があるから。だからこそ、『B-BOY PARK』の外に届けたいと思うし、そうじゃなきゃ意味がないと思ってます。“Same Ol’Biz”のリリックに〈Like ショーシャンク アングラから脱走〉っていうラインがありますけど、俺が常に思ってるのは、アングラにいたらすごくもったいないということ。そこに俺の音楽が収まっているのももったいないと思うし、いつだって脱走したいと思う。『別人Lボーカル』はそういうにものになったと思います」

Interview:三宅正一(ONBU)

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